手塚治虫作 『アドルフに告ぐ』を一回は読んどきなさい【レビュー】

漫画『アドルフに告ぐ』を久しぶりに読んだ。歴史を、戦争を、個人の生き方を考えさせられる手塚治虫の長編歴史漫画である。

今までに何度も読み、これからも読むであろう『アドルフに告ぐ』は、人生で一度は読むべき漫画だと思うし、自分の大切な人にも一度は目を通して欲しいと感じさせる漫画だ。ということでレビューを書くことに。

目次:

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『アドルフに告ぐ』のあら筋をザックリ紹介【ネタバレ少なめ】

アドルフに告ぐ

「重大な話があるから下宿に来てほしい。」オリンピックの特派員としてベルリンにいた峠は弟からそう伝えられていた。しかし、峠が少し遅れて下宿に着くと弟は何者かに殺害されていた。峠は真相解明を試みるが、目撃者もおらず、警察が引き取ったはずの遺体も行方不明となってしまう。なおも諦めず調査を続ける峠は、ヒトラーにユダヤ人の血が入っているという秘密を知り、徐々にナチスの闇に巻き込まれていく。

ユダヤ人のアドルフ・カミルとアドルフ・カウフマンは、幼なじみで神戸に住んでいる。肌の色からイジメられてしまうカウフマンを、カミルが助けたりと、二人は仲の良い親友であった。

しかし、ナチ党員の父親にAHS(アドルフ・ヒットラー・シューレ:ナチスの幹部養成機関)へ入学させられたカウフマンは、ドイツで徐々にナチスの思想に傾倒していくことになる。

ユダヤ人のアドルフ・カミル。ナチスの父親をもつアドルフ・カウフマン。ナチス総統アドルフ・ヒットラー。『アドルフに告ぐ』は、峠草平が語り部となり、これら3人のアドルフと、ヒトラーの出生に関する極秘文書を巡り繰り広げられる物語である。

物語は主要人物と場面を変えながら断片的に進行するが、やがて全ては数奇な運命の糸に手繰り寄せられるように一つのストーリーへと収束する。やがてカミル・カウフマン・峠の3人は戦時中の神戸で極秘文書を巡り争うことになる。

主に第二次世界大戦前から終戦までを描いた『アドルフに告ぐ』は、国家、民族、イデオロギーや宗教、そしてそれぞれが掲げる「正義」など、逆らえない大きな時代のうねりに翻弄されながらも、懸命に生きる人々の健気さや美しさを描いた長編マンガだ。

『アドルフに告ぐ』を読んで・・・印象に残ったシーンと感想!【ネタバレ多め】

『アドルフに告ぐ』は何らかの答えを提示せず、非常に中立的な内容であるという印象だ。国家やイデオロギーなどの、ある種の重さを伴うこれらのテーマを、中立的にかつ柔らかく描いている。

ぼく自身が『アドルフに告ぐ』を読んで、「こんな疑問を持っている人は読んでみたら興味深いのでは?」と思う部分を、その場面と感想を添えながら見出しを付けてみる。

※ネタバレがあるのでご注意下さい。

戦時中の日本の雰囲気を知りたい人に読んで欲しい

経験していない時代の雰囲気をイメージするのに歴史漫画は役に立つ。『アドルフに告ぐ』も例外ではなく、戦前から戦争末期にかけて、日本の社会が持つ雰囲気をイメージし易い。この時代の空気を知りたい方にとって、興味深い作品であると言える。

アドルフ・カミルの小学校時代の恩師である小城先生が、共産主義者の疑いをかけられ特高警察の赤羽と地元にいくシーンがある。ここで小城の兄は「この村で・・・アカの身内を出したなんて知れたら俺達一家村八分どころかふくろだたきだ!!」と言って、妹と赤羽を無人島に閉じ込めてしまう。「アカ」という言葉と、それが作り出していたある種の空気感をイメージし易い。

街中の描写にある看板などは軍事色の濃いものが多い。カウフマンの母親が始めたドイツ料理店に「物価統制令管理闇価格審査委員」という、舌を噛みそうな肩書の人がきて、「日本人はいまやひとしく耐えしのぶ時ですぞッ」と戒められるシーンも当時の雰囲気を垣間見ることができる。

この他にも、満州の描写など、歴史の教科書を読むだけでは、もう一つピンとこない時代背景をイメージする事ができる。

手塚治虫自身も、戦時中に青年期を過ごしていることから、当時の描写は現実に則したものだと考えられる。

国家ってなんだろうね?を考えたい人に読んで欲しい

「国家」とは一体なんだろう?分かっているようで、実はあまり知らないこのテーマについて興味のある方は『アドルフに告ぐ』を読むと何かヒントを得ることができるかもしれない。

神戸の街を眺めながら、ユダヤ人のエリザが「あたし自分の国がほしいわ・・・差別もされず亡命なんかしないで住める国・・・」と言うシーンがある。

「国家」の中で生まれ育ったぼくたちには、なかなか意識しづらい考えだと思う。根本的な安全を保証してくれる存在がないのだ。戦時中の混乱の最中において、それはどれだけ不安なことだろうと思う。

ユダヤ人のエリザは国家を持ちたいと願っている。しかし国家を持っていた日本人、ドイツ人も、国家が掲げる思想やイデオロギーに振り回されて暴走したりする。国家とは?という問いを考えるきっかけをくれる作品だ。

正義ってなんだろうね?を考えたい人に読んで欲しい

「正義」という概念は、この漫画『アドルフに告ぐ』の主なテーマの一つだ。

ドイツ降伏直前、ソ連軍がベルリンの総統邸に差し迫る中で、アドルフ・ヒットラーが嘆くシーンは印象深い。「なぜ負けたのだ なぜ・・・神は正義を見捨てたもうたのか!!なぜ・・・」

また、『アドルフに告ぐ』最終巻の最後。中東へと舞台は移され、ユダヤ人とアラブ人の紛争のシーン。「ユダヤ人はやっと手にいれた祖国を守るために そして アラブ人は侵略者ユダヤ人を追い出すために それぞれの正義をふりかざしたのである」と解説がある。

この作品で手塚は「正義」とは何かを示すことはしていない。『アドルフに告ぐ』を通して、答えなどないこのテーマを考えるきっかけを与えたかったのではないだろうか。

手塚治虫が『アドルフに告ぐ』について言及している動画があり、「正義」について語っているのも興味深い。(途中再生から4分30秒くらいまで、動画を全て見ても興味深い)


手塚治虫  ~アドルフに告ぐについて~

『アドルフに告ぐ』を読んで・・・最後に

長々と重めのテーマを取り扱ったが、『アドルフに告ぐ』が伝えてくれるメッセージは、実はもっとふんわりと温かいものかもしれないとも思う。

宗教、イデオロギー、民族や人種、それだけではなく些細な点でも一人一人違いを持つ人間。しかし、手塚の描くキャラクターは、総じて誰かを愛し、そして愛されている。それを思うと、すべての人はどこか深い部分で通底しているし、その意味でこの『アドルフに告ぐ』は愛をテーマの一つとしているとも言える。

最後に『アドルフに告ぐ』を読んで、ぼくが最も印象に残った峠のセリフで当エントリーを終えたい。

「誰も彼も 日本中の人間が戦争で大事なものを失った・・・それでもなにかを期待してせい一杯生きてる 人間てのはすばらしい」

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